ポートガス・D・エースの死についての諸々の話

ルフィの兄エースが死んで、こちらの世界ではもう10年になります。
彼の死は今や、ONEPIECEをあまりきちんと読んでない人でも知っていて、多くの人に「赤犬の安い挑発に乗ったせいで犬死にした」と思われています。

エースが死んだのは、赤犬の挑発に乗ったからではありません。

最終的には、それは死という結果を迎えた理由のひとつではあります。
彼が劣勢に陥ったことに関しては、挑発に乗ったからです。

しかし、彼が赤犬の挑発に乗った時点で死が確定したわけではありません。
結果的に死んだからといって「赤犬の挑発に乗ったから」というのは、結果論だと私は思っています。

1.真っ向から拳をあわせた時、エースは死んでいなかった

まずあの場面で何が起きたのか、事実のみ。

「この時代の名が白ひげ」の画像検索結果

エースが赤犬の言葉で立ち止まった後、二人は戦闘になりました。
怒り狂ったエースと、それを迎え討つ海軍最強の男。

劣勢のエース。そりゃそーだ。実力が違います。
でも。戦闘不能にもなってないし、もちろん死んでもいません。
この時点では、力の差がある者の戦闘の最中に過ぎません。

その後、赤犬は動けなくなったルフィの命を狙います。

エースはルフィを守るために飛び出し、腹を焼かれます。

「赤犬 エース」の画像検索結果

最後の場面でエースは、もう赤犬に背を向けているのです。

あれほど挑発に怒り狂って向かっていったはずなのに、この行動には戦う意志がありません。
これは、「絶対にルフィを守る」一点集中の動きです。

例えばここで背を向けなければ、エースは生きていたかもしれません。
しかしその場合、ルフィは死んでいたかもしれない。

「シャンクス 近海の主」の画像検索結果

シャンクスもそうだったはず。
実力差があって彼は死ななかったけれど、小さなルフィを守ることをなにより優先したのでないなら、腕なんか絶対なくしてないでしょう。

自分が背中に背負った白ひげの誇りは、まさにあの場で一番守ろうとしたものだったはずなのに。
彼は瞬時に戦闘を放棄し、赤犬に背を向けその誇りを貫かれながら、ルフィを守った。

エースは自分の命よりも、立ち止まるほど許せなかった赤犬への怒りよりも、ずっと守ってきた白ひげの誇りよりも、何よりもルフィを守ろうとしたから死んだのです。

2.大事な人を馬鹿にされるということ

エースだけに限らず、自分が馬鹿にされることと、大事な人が馬鹿にされることはわけが違います。

「シャンクス 友達を傷つける奴は」の画像検索結果

シャンクスも、自分が酒をかけられた時点では笑ってたけど、ルフィに手を出されたら絶対に許さなかった。

「ベラミー ルフィ」の画像検索結果

ルフィも、ジャヤで自分達が馬鹿にされた時点では一切手を出さなかったのに、クリケットさんのためにベラミーを殴った。

「ウソップ 仲間の夢を笑われたときだ」の画像検索結果

いつも逃げ腰のウソップも、ルフィを馬鹿にされたときは立ち止まり、逃げません。

他人からは「悪口ひとつ」に見えたかもしれません。
でも、エースにとっては「悪口ひとつ」ではなかった。絶対に許せないことは誰にでもあり、人によって違います。

「自分にとってはどうでもよくても、この人にはこれが大事」、ルフィは理解できる男です。

「その時のロジャーはまさに鬼」の画像検索結果

とくに、大事な人のためエースが逃げずに立ち止まる気質は他人のそれよりズバ抜けて強く、それは親であるロジャー譲りのものです。

仲間たち全員の忠告を無視して勝手に飛び出して来て、 潜入先の海軍で騒ぎを起こす。

「おれの後ろにルフィがいた」の画像検索結果
「ロジャー 逃げない」の画像検索結果

子供の頃から、相手が誰であっても守ると決めたもののためには決して退かない。
徹底して今までずっと、突き進み続け、逃げてこなかった男なのです。

3.エースという男が抱えていた宿命と、弟ルフィ

初登場時のエースの印象、「高みを行く自由人」だったんですよね。

そんなエースの弱さが死ぬ前に明らかになり、死後の過去編で繋がってゆく。

「生まれてきてもよかったのかな」の画像検索結果

憧れの存在に見えた彼の姿と、実際の自己肯定感の低さにかなりギャップがありました。

「エース 涙が止まらねえ」の画像検索結果

エースの人生というのは、自分の価値を信じられずに生きていた人が、自分の価値の確認に周りを巻き込む話なんです。

めちゃくちゃ生きづらい人生を送ってきたメンヘラの話なんですよ。
「おれのことなんか誰も要らないんだ」って言いながら、追いかけられると大喜びするメンヘラ。

最初にルフィが勝手な理由で追いかけてきて、最後までそれの延長だった。
普通の人なら踏み込んでくれない場所に、ルフィが踏み込んでくれた。という、結局ルフィの話なんです。

もしエースがルフィと出会わなかったら、出自のせいで性格のねじまがったエースは誰からも愛されることのない人生を送っただろう。

というところを、欲しかった生き方を見つけて、大事な人を守って、愛されて一生を終えることができた。
それは、全部ルフィと出会ったせい。という話です。

初登場時はこう思わせられたはずです。
しっかり者の兄であるエースは、ルフィの人生においては、少し先の目標でもあるのだろうと。

実は、そうではなかった。
エースの方がルフィに生かされていたのです。

それが途中でわかるの、めちゃくちゃに「ONEPIECE」ってカンジがする。信者だから褒めるけどさぁ、この漫画は、こんなにキャラを出しまくりながら、こんなに複数の人生を描きながら、「主人公はルフィである」ところから絶対にブレないんだぜ

何者でもなく生まれ、無邪気に進み、色んなものを得てきたルフィ。

対照的に、生まれたときに背負っていたものが一番重く、そこから逃げようとする旅を二十歳で終える、ずっと人生を逆走してきたエース。

自分でどうすることもできない出自のせいで世界中から憎まれ続け、逃れられない宿命のなかで生きていたエースを「弟だから」という単純な理由で頼り、どこまでも追って来てくれるルフィの存在が、彼の人生を救ったのです。

4.自らの意志で助けに来た白ひげ一味

「せっかく助けられた命を無駄にした恩知らず」
「彼を助けるために命を落とした人が報われない」

という意見、見ますね~

白ひげは確かに「おれを置いて全員逃げろ」って船長命令を出しましたが、そもそもエースって最初から白ひげ一味の言うことずっと全然聞いてないじゃないですか。
それでも、全然構わず助けに来てくれてるような人たちですよ。

「おれは行けと言ったはずだぜ」の画像検索結果
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この一味にとって、言うことを聞くとか聞かないとか、全然関係ないんですよ。

白ひげを刺したスクアードまで愛してくれるんやぞ。

この海賊船の形態というのは、親子であって、家族です。
言うことを聞かない息子、早とちりで親の贔屓を疑う息子、いるでしょう。
馬鹿な息子を、それでも愛そう。
船外の人間から家族ごっこと野次られようが、この男の下に自ら集まった男たちは紛れもなく、そのスタンスの賛同者です。

自分の行いに納得ができず、償いとしてその場に残ろうとしたスクアードも、白ひげは止めようとはしませんでした。
白ひげは常に、息子にとって気が済む道を選ばせてくれるのです。その結果など関係なく。

こんな船長のもとで、行きたくないのに無理やり連れて来られた奴なんか、いるだろうか?

この親のスタンスでこれだけの人間が集まっている。
それは、自らの意志で来ているということです。

もちろん、エースを助けたくて来ている人ばかりではないでしょう。
とくに配下の海賊たちは、まさしく白ひげという男のために命をかけて、ここに来ていると思います。

エースは前項で書いた通り、周りを盛大に巻き込んで死んだメンヘラなわけですが、

恩を発生させないために「勝手に来た」と言い張ってまで戦場に来た男たちが「死ぬと思わなかった」「こんなはずじゃなかった」と後悔しているかもしれないと思うのは、彼らの覚悟に対して失礼だと私は思います。

また、このシーンを引き合いに出している人がいたようですが、あれはサンジが無抵抗で死のうとしたときの話でしょ

戦う意志のあったエースに対して引き合いに出す話じゃないからな(怒)(怒)(怒)

「死ぬことを計画に入れる」の画像検索結果

その人にはこのシーンをお返しします。

5.赤犬と白ひげの頭脳戦だった

赤犬は、他の人間なら誰も信じないような与太話をスクアードにしました。

唯一信じる男を選んで声をかけたのです。そして白ひげに致命傷を与え、戦局を変えた。

さらに、他の人間なら立ち止まらない挑発に足を止めたエースの前でロジャーの名を出し、言葉巧みに戻らせて、戦局を変えた。

すなわち頂上戦争において、赤犬は最も海賊王に近い場所にいる男を倒し、かつての海賊王の血を途絶えさせることに成功しているのです。
言葉だけで。

海軍最強の男は力だけではなく、頭脳の面でも非常にキレる男だったわけです。

ところが。

「ワンピースは実在する」の画像検索結果

ド  ン!!!!!!

死にかけていた白ひげの一言で、赤犬の功績は一気にひっくり返ることになります。

大海賊時代における重要人物が二人も死んだのに、時代に終止符を打つどころか、新たな時代がここからさらに過熱していく。
たった一言で。

頂上戦争で時代が動いたのは、頂点に近い人間が大量に集まって最強の戦力がぶつかったからではなく、この二人の男がそう仕向けたからです。

海軍と海賊による、これからの時代の主導権争いだったのです。

6.エースの死に関しての思い

白ひげ一味には女が一人もいません。
ナミさん辺りがあの場に居たら絶対「バッカじゃないの!?」って言ってると思う。

「女は蹴らん ばかね」の画像検索結果

あの場で立ち止まることというのは、命より誇りを優先してしまう、ONEPIECE世界の男の思考としてよく描かれる「バカな行い」です。

エースを好きな人も、別にエースの最期が賢くて、カッコよかったと思ってるわけじゃないのです。

賢く汚く生きて欲しかったけど、でもあそこで立ち止まらず逃げていくエースは、私たちの知るエースではない。

何度同じことが起きても、きっと立ち止まっちゃうのがエースらしさで、そんなエースの人間性をこそ愛していた。

ロジャーの無謀な血がこんなにも強く流れていながら、それでも彼が納得できる最期を遂げられたことに文句などない。というだけです。

エースの死、ネタにしても全然いいと思います。
何度でも話題に上がるほど、誰にとっても衝撃的な展開だったことは確かなので。

エースはバカバカしい気質を持っていたかもしれませんが、親のロジャーはその気質を貫き続けて海賊王になりました。

冒頭で「結果論」と言いましたが、ロジャーは結果的に成功したから「海賊王」と呼ばれたし、エースは結果的に死んだから「敗北者」と笑われるようになった。

恐らく、ONEPIECE世界での二人の評価もほぼそうでしょう。世間の評価っていうものは、そんなもんだと思います。

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でも本人はまさにその「世間からの評価」から解放され、大事な人に愛されて死んだ。

本当は何が起きていたのかわかると、ONEPIECEってめっちゃ面白いと私は思ってます。

是非彼の人生を知り、その上で、好きにやってくれたらいいな。

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