海賊王の時代に生きた伝説の男。
急成長中のルーキー・麦わらの一味を、手も足も出させないまま、まとめて行動不能にする。
それなのに、最後に彼はルフィと一体一で戦い、敗北しました。
彼が負けた原因は何だったのでしょうか。
1.劇場配布の0巻を読もう
本編でその原因に疑問を抱いた人は、ぜひ0巻を読んでください。
シキの物語は映画の中ですべて語られておらず、0巻を読まなければ完結しません。
なぜ語られていないのか?
ONEPIECEはルフィの物語だからです。本編はルフィの物語として、ルフィ側から描いてあります。こちらはきちんと完結しており、不足している物語はありません。
でも、なかにはこう思った人がいます。
「シキという男は何だったのか?」
ルフィからの話だけでは、彼の負けに納得できなかった人。
0巻は、そんなあなたのための本です。
「0巻を読まなければ納得がいかないのは、映画としてどうなのか?」
…はいはい。あのね。落ち着いてください。
0巻はあくまで、補足。「ありき」の本ではありませんので、重要なキーはきちんと映画のなかにあります。シキの台詞を見てみましょう。
2.「東の海には死んで惜しまれる偉人もいねェ!!」
シキはターゲットに東の海を選んだ理由として、わざわざ東の海が無価値であることを強調して挙げています。
これは、「他の海になら、生かす価値のある男がいる」ということでしょうか?
ならば、それは誰か?
彼が作中口にした、「偉人」と呼ぶべき人物は?
彼が口にした男の名はただ一人。
そう、ロジャーです。
彼の言う「死んで惜しまれるべき東の海の男」は、他の海にいるなにがしかの猛者たちではなく、もう今の時代にいない男を指しているのです。
映画だけを見てこの台詞をスルーした人も、0巻を読めばピンと来るはず。
彼が東の海を破壊の対象として選んだのは、東の海の偉人・ロジャーが、そこに既に生きていないからなのです。
ロジャーのような男が出てこない今の東の海に、彼は失望しているのです。
3.「東の海の男におれは手加減できんぞォ!!」
20年もロジャーに固執し続けた男の前に現れた、東の海の男。
ただの敵ではありません。海賊王を目指すと公言する敵です。果たして彼はルフィに遭遇し、平常通りでいられたのでしょうか?
否。
落ち着いてみれば実際のところ、ルフィはロジャーと何ら関係のないただのルーキーにすぎません。
血縁でもない。面識すらない。
それなのに、「東の海の男」とわざわざ出身地で呼んでしまうシキ。ロジャーとの共通点を見て、口にまで出してしまう。
なぜ東の海の男には手加減ができないのか。
勿論、東の海の男であったロジャーに因縁があるからです。
目の前の男に向けての拳に、ロジャーへの強い想いが乗ってしまうから。だから、「手加減ができない」のです。
彼の胸中がどれだけ冷静から遠い状態なのかが、わかると思います。
4.「東の海の男におれはまた阻まれるのか!!!ロジャー!!!!」
はい、決着の瞬間です。
とうとうはっきり言いましたね。「ロジャー」という名を。
実力と経験でシキがルフィより遥かに上なのは、最初のバトルで一目瞭然だったはず。
しかし、彼は過去を振り返り、目の前のルフィにロジャーを見てしまった。
ルフィは未来を目指して、前だけを見て、守るもののために、勝つために成長していく新世代です。
一方のシキは、今の時代に納得がいってない。過去に囚われたままの男です。ロジャーのいた時代を未だに引きずり、忘れることができない。
ロジャーは勝ち逃げで死んだ。
死人との勝敗が今後、変わることはありません。シキはもうこの先、絶対にロジャーに勝てないのです。
奇しくも最終決戦にて天候は荒れ狂い、シキにとっては最も忌まわしき戦い、エッド・ウォーの海戦の状況まで再現されてしまいます。
彼は、絶対に勝てない過去の人物を、ルフィの中に見出してしまった。
自分が認めていた男。勝てなかった男。
シキは、この海にロジャーのような男が居なくなり、つまらなくなったことを憂いていました。
ルフィを「ロジャーのような男」だと認識してしまった以上、彼に残された道は敗北しかありませんでした。
彼の中のロジャー像は、自分の思い通りにならず、最後には自分の野望を阻む男だからです。
ルフィがシキを倒せた理由。
それは、シキの愛してやまないロジャーという男の姿を、目の前で再現したからに他なりません。
シキの声優、竹中直人の言葉を借りると、この映画はまさに「シキによるロジャーの弔い合戦」です。
ロジャーへのラブコールだったわけですね。
ロジャーは死してなお、今でも生きているものたちに影響を与えている、東の海の偉大な男です。
それでも時代は彼らを超えて新たなルーキー達の手に渡り、先へ、先へと進んでゆくのです。